NORの目に映る世界。 NORというフィルターを通すと、こんな風になってしまうんです。 子供の頃は、汚い街だと思ってた。 大人になって、儚い街だと気がついた。 それならいっそ、浮かれて暮らそうじゃないか。 無情な現を嘆きながら。

2011年12月09日

一輪花





愛しい君に花束を
寂しい君に花束を




だけど…




鮮やか艶やかな花束も
君と並べば霞んで見える

美しい君が際立つのは
煌びやかな舞台より
たった一つのスポットライト


そんな君には
一輪花がよく似合う








以前働いていた洋食屋さんがやむを得ず閉店となったとき、常連のお客さん達は連日のように足を運んでくださった。
いつもいつも食べているメニューなのに、美味しい美味しいと召し上がってくださった。
その顔を見るのが大好きだった。

「NORちゃんは働き始めて短いのに、慣れた動きするのねー!」

勤めて間もない頃、常連の奥様が声をかけてくださった。
上品で、綺麗で、還暦も過ぎるというのにそれを感じさせない若さを持った方だった。
それを鼻に掛けるわけでもなく、気さくに、しかもとても豪快に笑う人。
その人が大好きだった。

たった1年、働いただけだったのに今でもその建物を見ると涙が出そうになる。
レンガ造りの、洋風3階建て。
ゴスロリ系レディ達がわざわざ写真を撮りに来ていたのを思い出したよw

そのお店であたしは、苦手だった「人の目をみる」ことを克服した。
もともとはそれが出来ていたのに、とあるきっかけでそれをしなくなった。
視線を外すようになり、視線を避けるようになり、人を見ないようになった。
そこでは、あだ名で呼び合うことになっていた。
あだ名は店長の奥さんが決めてくれた。

「NOR、ちゃんと前を見てね?顔も心も体も、必ず前を見るの。そうすれば、きっとみんな愛してくれるから。」

あたしは、彼女の言葉を忘れない。
落ち込んでいるときや失敗したときに、必ずこうして声をかけてくれた彼女。
あたしは忘れない。
1年間、彼女はこうして出来損ないなあたしを育ててくれた。
前を見て生きることを、人を見ることを教えてくれたんだ。

丸1年働き、あたしは人の顔と名前を覚えることが得意になった。
営業最後の日、着慣れた制服に腕を通す。
涙が出た。
化粧がボロボロになるほど泣いて、一日働いた。

「NORちゃん、お疲れ様。初めて逢った頃よりずっと綺麗になったね。これからも頑張ってね!」

常連の奥様が、ピンクの花のブーケをくれた。
小さな造花のブーケ。

「NORちゃんは、絶対に枯れないと思ってるの。枯れて欲しくないと思ってるの。だから枯れない花束を選んで作ってきたの。大切に生きてね。」

いつも綺麗で美しかった奥様は、癌を患っていたらしいことを最後の日の夜に聞いた。
あたしはブーケを握り締めて泣いた。
大声で、辞めたくないと泣いた。

枯れないピンクのブーケ。
いつまでも枯れない、美しい花が、今でも部屋に飾ってある。



「本当はね、NORちゃんには一輪挿しをプレゼントしようと思ってたのよ。でもね、一輪挿しは儚いの。寂しいの。だから貴方には向かない。だけど、貴方には一輪挿しが似合うと思うわ。飾らない、余計なものは身につけなくても十分美しい一輪挿しに、貴方はよく似てる。」



いつかあたしは、凛と立つあの奥様のように、強く咲く一輪挿しのように、美しく生きたい。  


Posted by NOR at 23:04Comments(0)